彼らの旅 私の旅 雨上がりの夜の物語「桜の妖精からの贈り物」

「あ、こんばんは・・・一人、ええですか?」
「どうぞどうぞ、良かったらカウンターへ」

女はヘルメットと傘を持っていた。さほど大きくはないデイパックを背負っていた。

「あ、バイクですか?」
「ええ、そうなんです。雨降ってしもうて。もう止んだんじゃけどなぁ」

「ん?どっかで聞いた言葉・・・もしかして、あなたも西から来られた?」
「あ、わかる?」

「ええ、ちょっと前に、岡山のライダーさんが来られたんですよ」
「もしかして、それって、自称竹中直人似の人じゃった?あと、自称イケおじ(笑)」

「うーん、そういえばそうだったかなぁ。お知合いですか?」
「ええ、長い付き合いで・・・中学の同級生なんですよ」

「そうですか。ところで、何か飲みますか?ソフトドリンクとかコーヒーありますよ」

「いえ、そこのホテルに予約入れたけぇ、お酒飲みたいです!あとタコウィンナー乗せナポリタンかねぇ。もう、お昼抜きでスクーター飛ばしてきたけぇお腹ペコペコで」

「え?スクーターで?岡山から?」
「え、ええ、そうなんです、えへ」

バイクはホテルに止めて来たと言う。空腹のため、チェックインだけして、すぐに店に来たのだと。

酒は飲める口らしく、せっかくだからと地元の酒をご所望。ここはやはり、宮城狭だろうか。

「地元のニッカ工場で蒸留された、シングルモルト宮城狭はどうでしょう?ロックか水割りがお勧めだけど、ハイボールもいけますよ!」
「じゃあ、ハイボールで」

女性客には甘い俺。

だが、やはり初めて来た客には海鞘(ホヤ)を出す。どんな顔で食べるのか、俺の悪趣味は止まらない。今日は、たまたま生海鞘が入ったから、海鞘酢でも出してみるか。

「はい、これお通し。ホヤって食べたことあります?」
「ほ、や?無いです。何ですか、それ」

「地元の海産物ですよ。美容に非常にいいやつ。ただし、かなりクセのある味だから気をつけて」

彼女は、美味そうにハイボールをごくごく飲み、もう一つのお通し、いぶりがっこポテサラを上手そうに食っている。

タコウィンナー増量(俺は女に甘い)のナポリタンももりもり食って、ひと段落すると、話し出した。

「あのなぁ、ちょっと前の話なんじゃけど、素敵な出来事があったんじゃよ~聞いてもれーる?」
「へえ~素敵な出来事ですか、どんな?」

俺は、ジムビームで炭酸多めのハイボールを自分のために作った。時間は21時を回り、雨のせいか客は奥のテーブルに、近所のいつもの客が1人きり。無口なハーレー乗りだ。

ハイボールの2杯目をオーダーして、女は語り始めた。

「その日は、朝からうきうきじゃったんじゃ・・・」

「桜の妖精からの贈り物」

その日は朝からウキウキ❤️

何でかってゆうと 見晴らしのええ山の上にある、石の風車が回る公園でバイクイベントがあるから。

方道約50キロのツーリングには丁度いい距離。市内を抜けて山道を走るコースにはまだ桜🌸も楽しめそう。

そのイベント、いろんなオートバイが集まるみたいでチョッパーやら、カスタム車も。

そんなイベントに60ccのスクーターで乗り込んでみようとしたわけ 笑笑
それも今は珍しい2スト❣️

前から一緒に行こうと約束してたツーリング仲間のYは、腰痛のため別の知り合いの方と車で参加。なので現地集合になった。

誰かと一緒に走りたいな、と思い、同級生で大型オートバイ乗りのタカを誘ってみようと思ったが、大型排気量とスクーター、パワー違いで一緒になんぞ走りも出来んけど一応誘ってみた。

「おー、ちょうど山の散歩(ソロで走る)に行くけん、寄ってみようかな 笑」
「えー?ほんま?嬉しい〜」

「うんうん、ほんじゃ会場で会えるなあ」
「おー適当に走って寄るわ」
「じゃ現地で!」

嬉しい〜
ちょっと心がウキウキ❤️

だって同級生のタカ、中学の時❤️だったんよ 笑笑

やっぱ、中学の思春期のそんな気持ちて、大人になっても甘酸っぱい記憶じゃが? 笑笑

1週間ぶりにエンジン点火には少々時間がかかる。
バッテリーが弱い為キック。

キックキックキック
エンジンがかかりそうで、かからん💦

肌寒いのに少し汗ばんだ時にエンジン始動❣️
私の暖気は充分満たれとる模様 笑

暖気しとる間に、身支度。結んだ髪をジャケットの中に入れ、少しでも風から髪を守ってあげよう。
てか、女アピールしたく無いんよな😆

そんなこんなで、予定時間より遅く出発。

こんもりと低い丘のように見える古墳。そんな古墳がいくつもあるのどかな風景に、悠々と建立している五重塔を左手に望みながら2ストは白煙を吐き続ける。

でもな、調子に乗って走り続けると熱ダレするけん休憩も必要。
その上、熱ダレ以上にジャケットに入れてた髪が結局風圧でバサバサ出てきたぁ💦ひとつに束ねるだけじゃダメみたい。

田園の中に新しく出来たバイパスを走り途中広くなった路肩に停まる。髪を編んでもう一度ジャケットに入れるために。

髪を編んでいたら後方からドコドコと重低音のシルバーのオートバイが行き過ぎた。
あれ?
なんか聞いたことがあるエンジン音。


もしかして、タカ?
いや、いつものジャケットじゃ無いし、朝連絡してからだいぶ時間も経ってるから違うライダーじゃな。

ジャケットに編んだ髪を入れ再び走り出すと、信号でさっきのシルバーのオートバイが。

大型なのでスピードが速いのに、タイミングが良いのか悪いのか3つある信号が全て赤で停止。結局スクーターが追いついてしまう 笑

斜め後ろで停まると、ヒロかな?いや違うよな、ジャケット違うし、ヘルメットあんなデザインじゃったっけ?とか、いろいろ考えながら、えい!もう横に並んじゃえ!

そうじゃ!皆んなでお揃いで買った中の国製のインカム、あれ付いとったらきっとヒロじゃわ。

チョコチョコ前に行きインカム見たら、ビンゴ!
思わず手を振る私!

そんな私に気づいた彼。少しスモークがかかったシールドが開くと、いつもの優しい目元が見えて胸キュン。

わぁ、やっぱりタカじゃ!

「 あれ?momoちゃん? 俺、てようわかったな!ヘルメットも違うのに 笑笑」

「ん〜、オートバイの音がドコドコゆっとるし、ジャケットはいつものと違うけど何となくタカかな?て 笑。極め付けはインカムじゃわ!あはは 笑」

タカは県北の満開の凱旋桜の花見に行くらしい。 お互いの目的地は方向的に一緒。途中まで一緒に走れることに。

これだけ会話が出来るなんて赤信号のお陰だわ 笑

信号に(神様)に感謝しながら、しばしのツーリング。 川沿いの国道を走るも,、排気量の格差でどんどん離されて行く。

だけど、赤信号の度にミラーで後ろを気にしてくれるタカ。おっさん乗りの私だけど、後ろを走る私を気にしてくれてる、てことだけで女子扱いされとるぅと、自意識過剰すぎでウキウキ 笑笑

そんなウキウキもお終い。山道に入ると、レーサー気質に火が付くタカ。また後で!てな感じで手を振ってあっという間に山の中に消えてしまう。

さてさて、目的地までソロツーリング。

まだ楽しめる🌸を期待しながら山道を上ります。

流石に60ccでは山道の上りは限界がある。全くもってスピードは落ちるばかり。下りは任せて❣️というくらいスピード上昇。

250やオーバーナナハンでは味わえない非力さを堪能しながら進む〜

途中見事に満開の🌸を愛で、しばらく走ると舞い散る🌸吹雪。

山の神様に🌸花見の感謝をしつつ、セピアは白煙を吐き続ける。

イベント会場に着くと、チョッパースタイルのカスタムバイクやハーレーが並ぶ中に、スクーターのセピア 笑笑

スクーターなんぞ殆ど来て無い😅デカいバイクに紛れて停めた。

カスタムショップやジーンズショップを吟味中に、車で来たY&お友達と合流。

ショップ巡りや200台は来てる、様々なオートバイを堪能。

カブのチョッパースタイル(なかなかの手作り感がサイコー)のおにーさん達とおしゃべり。

その後、昼食なのだが、私が並んだお店がかなり待つことに💦

Y&お友達はすでに食べ終え、まだ待つ私。

「待つの好きなんじゃなぁ 笑笑」
(前回のイベントで私が並んだお店もかなり待たされたの知ってて)

「そろそろもう帰るわ〜お先に」

「好きで並んでるわけじゃねーし!これだけ待ってたらこの後なんかええことあるもん❣️」
と強気と弱気が入り混じる。

やっと出来上がった焼肉ドッグを片手に自販機でコーヒー買ってると、聞き覚えのあるエンジン音❣️

あ、タカ❣️

ちょうど入り口ゲートから自販機が見えるので、手を振る私にタカも気付いてくれた❣️

神様!やっぱりええ事、くれたんですね❣️
待ってた甲斐がありました❣️

これ、少しでもタイミング悪ければ、お互い探すのに何かしら連絡しないといけない羽目になるよねぇ

ほんま、神様、ありがとう❣️

神様に感謝しながら、腹ペコmomoはタカを待てずにモグモグタイム。

二人でイベント巡りをしながら、お目当てのショップの方にご挨拶。

空模様が怪しくなり帰ることになった。

二人の帰る方向は微妙に違う。

「タカはどのルート帰る?」
「雨雲の位置微妙なんよなぁ」

「momoちゃんは 恐らく来た道帰った方が良さそうよ」
「その方が雨に合わんかも」

結局帰りは別々のルートになり、お互い気をつけてな、とバイバイ👋

帰りは完全にソロ。
インカムから流れるユーロビート超の音楽🎵で少し寂しい気持ちを紛らせながら走る。

少しの間だけど、雨雲に捕まり寒さと寂しさを感じつつ、朝からの一日を振り返ると暖かい気持ちになった。

二度の偶然のタイミングを貰えたことは、神様というよりか、まだまだ咲き誇る🌸桜の妖精からのプレゼントと思えた。

(momoさんのお話 おわり)

「なんか、いいですね。そういう考え方って」

「そうですか?」

「春らしいっていうか、桜の妖精っていう考え方、可愛らしいというか」

「なんか、自然にそう思えたんですよ」

「生まれてから誰もそういうこと、きっちり教えたわけじゃないのに、心の中にそういう考え方がしっかりあるんですよね、日本人て」

「大事にしたいですね、そういうの」

「明日はどちらへ?」

「ええ、カモシカさんとお寿司のレディースセット食べに行くんです。し お が ま、というところへ」

「ああ、レディースセットね。カモシカくんお得意の。楽しんで行ってらっしゃい」

「はい、楽しみです!」

「あ、カモシカくんも、あなたのように、誰かにときめく心を持ってほしいですけどね・・・無理だろうなぁ」

「笑笑 おやすみなさい」

おわり

写真・物語:momoさん

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