
「またカモシカさん消えちゃいましたね」
「んだな」
「私たちのこと何とも思ってないみたいですね。一緒に旅もしたし、このbarでたくさん語り合ったりしたのに」
「んだよな」
「マスター、なんかどうでもいい感じ?」
「んー、だってさあ、俺、商売だから店来いよって強く言えない立場。金無いのに来いって言えないし、気分じゃないのに来いって言えないし」
「まあ、それもそうですけどね。仲間って言うかぁ、元気かどうかくらいメールくれてもいいのにって思うんですよー」
「でもさあ、ソーダちゃんからメールしてんの?」
「え?そういえば、してないかも。barに来れば会えるって思ってるから」
「じゃあ、しゃーないべ。お互いさまって言うかさ」
「うーん、まあ、そうだけど・・・」
「それよりさ、一昨日、カモシカくんのSNSつながりのお客さん来たんだけどさ、話によるとカモシカくん怪我して休んでるらしいって言ってたな。チラッと」
「えー!怪我ですかぁ?」
「うん、お客さんかなり酔ってたから、はっきりわかんなかったんだけどさ。俺も飲んでたし。思い出すと、そんな話聞いたような気がした」
「じゃあ、お見舞いしないと」
「いや、でも、バイクで夜中走ってる時にカモシカにぶつかったバイク乗りの話だったかもな」
「なんですか、それ」
「けっこう飲んだんだよな。一昨日はそのお客さん一人だったからさ、昔の旅の話が盛り上がって、ついつい飲みすぎてさ。彼は20代の頃、仕事辞めて旅に出た。俺は結婚相手に振られて日本一周。2人とも乗ってたバイクはKAWASAKI。盛り上がらないわけないだろ」
「どんな話だったんですか?その人の旅って」
「長い話だよ。俺たちみたいなバイク乗りは、誰でもひとつやふたつ胸の奥にしまってる旅の思い出があるんだ。たぶん、一生消えない思い出ってやつが」
「えー聞きたいです」
「それがな・・・」
つづく
次の話は、やまび―待ち。