ティーダの春

ぼくはティーダ

ぼくのタンクの色はキャンディースパークゴールド
太陽のイメージだからって太陽という意味のティーダという名前を付けてもらった

ぼくの元々の名前は250TR
ニンジャとかハヤブサとかカタナとかぼくもそういう名前がほしかったから
太陽の意味の名前を付けてもらえて嬉しかった

それにぼくは10年以上も中古バイク屋さんの倉庫にいて
いろんなバイクとぎゅうぎゅう詰めの倉庫の中で動くこともできなくて
苦しくてつまらなくて悲しくて寝てばかりいたから

また走れるよってバイク屋の整備のお兄さんから言われた時
びっくりしてちびりそうになるほど嬉しかった

ぼくが倉庫に来る前は若い女の子が大事に乗ってくれてて
街の中とか買い物とか近くに行くときぼくに乗って出かけてた

ツーリングとかそういうのには行かない女の子で
そのうちあんまり乗らなくなって車を買ったからってぼくを中古バイク屋さんに売ってしまった

10何年ぶりでぼくが息のつまる倉庫から運ばれて整備のお兄さんに綺麗にしてもらって遠くまで運ばれて

ぼくに乗ってくれる人とやっと会えたらおばあさんだったからちょっとびっくりした

でもそのおばあさんはぼくを神社に連れて行ってくれてお金をかけてお祓いをしてくれて三本足の烏の神さまのシールも貼ってくれた

それから街をちょっと離れたところまで何回か走って行って

ぼくがあんまり久しぶりに走ったせいでエンストしたりエンジンの調子が不安定だったりしてちょっと嫌われたかなと思ったけど

ガソリン添加剤というのを買って入れてくれてオイル交換何回もしてくれて何かスッキリした

エンストしても不安定でも夏のすごい暑い日も冬の寒い日も何回も走ってくれて

最初は山の中の細い怖い道とかばっかりトロトロ走っててぼくもちょっと怖かったけど

そんな道いままで走ったことなかったからだんだん楽しくなってきて

おばあさんはどんどん違うところに走って行くようになって

バイパスとかでスピードも出すようになって
ぼくはどんどん調子が良くなって

春には夢だったとおばあさんが言っていた大きな桜を見に行った

朝早くみごとな桜の場所に着いておばあさんは一生懸命桜とぼくの写真を撮ろうとしていろんな人に叱られて

ぼくもおばあさんもうろたえてぼくが先にころんじゃった

ぼくがうっかりおばあさんの足に倒れてしまったからおばあさんの足が傷ついてぼくのクラッチレバーとシフトペダルも曲がって普通に走れなくなってとっても困ったんだけど

おばあさんは頑張って安全な場所まで一速で走って行った

それから大きなトラックがぼくを運びに来た
おばあさんはお別れの時手を振ってくれてた

ぼくが足に倒れなければ良かったのに
悲しくてぼくはトラックの上で泣きそうになった
でもおばあさんはにこにこ笑ってて悲しくないのかなとぼくは不思議だった

それからぼくは軽い修理と点検をしてもらって
また1年前のように中古バイク屋さんの倉庫に置かれることになった

1週間たっても2週間たってもおばあさんは迎えに来てくれなくて

ぼくはまたあのつらくて長い長い日々のことを思い出して不安でたまらなかった

ちょうど1ヶ月経った時、整備のお兄さんが倉庫からぼくを出してくれた

もうおばあさんはぼくのことを嫌いになったのかと思ってたからまたどこか遠くに運ばれて行くのかなと思ったらおばあさんが来た

聞こえない声で迎えに来たよと言ってくれた
ぼくはほっとした

その後おばあさんはいろいろぼくに話しかけながらまた丘の上の神社に連れて行ってくれた

お守りの烏の神さまのシールをはがして新しいシールを貼ってくれて写真を撮ってくれた

久しぶりに走れてぼくは気持ちが良かった

おばあさんも不安そうだったけどすぐにいつもの調子に戻っていた

バイク屋のおじさんと話していたのが聞こえてきておばあさんの足が骨折したことを知った

でもおばあさんはぼくに荷物を積んでブーツを履いたりジャケットを着たりしながらとっても元気で、大きい声でおじさんと笑いながら話してた

ゆっくり走り出してから、足、痛くない!とおばあさんは言ったからぼくはホッとした

神社に行く道を迷って少し余計に走って帰りは近道して

全部で4台のバイクが並んで止まれる駐車場に着いた

おばあさんは青いタオルでぼくの埃とかを拭いてくれて錆も増えたしちょっとやつれた?と言った

それからぼくにカバーをかけながら聞こえない声でまた走りに行くからよろしくねって言った

ガソリンも満タンにしてくれてぼくはお腹いっぱいでぐっすり眠った

今度はどこに行くのかなまた遠くに行けたらいいな

おわり

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